数理ファイナンス入門
第1章 1期間証券市場
1.1 モデルの記述 第1.1版 2001年12月24日
■説明
・この節は定義ばっかりです。
定義の意味を良く考えましょう。
・記号について
α={At:t=0,1}という時は確率過程を示していて、t=0のA0から、、t=1のA1に変化しますよと
いうことを示しています。
β=(B1,B2,...,BN)というように、(と)で囲むのはN次元のベクトルを示します。
γ={C1,C2,...,CN}というように複数個の記号を羅列して、{と}で囲むのは集合を示します。
(*).別にこれは数学一般の話ではなく、この本だけの決まりですが、これに基づいてこれからの説明が始まります。
■まとめ
・時間
初期時点をt=0、最終時点をt=1とする。
その中間(t=0と1の間)の時間のことは一切考えないで、t=0とt=1の2つの時刻のみを考えることに注意しましょう。
(だから、1期間モデルなんですね)
・状態ω
ωは世の中でt=1に起こりうる経済状態を示す。
つまり、Ω={ω1,ω2,..,ωk}は有限標本空間である。
じゃ、t=0の時はどうなっているんじゃ?という疑問が湧きますが、
t=0はただ1つの状態(現在と思うと分かりやすいです)をとっている訳です。
つまり、以下のような関係です。
t=0 (現在) t=1 (将来)
→ ω1の時
→ ω2の時
→ ...
→ ωkの時
(*).ω1,ω2,..,ωkのどれかになるのですが、t=0の時点ではどれになるか未知です。
それと、「有限標本空間である」というのは、分かりにくい表現ですが
ωkが有限(無限でない)で、k個のωを並べてk次元の空間とみますという意味です。
(この複数個の変数を並べて空間というのは数学の常套手段ですので、慣れましょう。)
標本空間というのは、確率の用語で、とり得る全体の集合を指す言葉です。
・確率測度P
Ω上の確率測度。任意のω∈Ωに対しP(ω)>0。
測度は「そくど」と読み、英語で「measure」といいます。
尺度という方が分かりやすいと思うんですけどね。(なんでまた、こんな難しい日本語の訳なんでしょうね〜?)
単に、ωの状態が起こる確率と考えればいいです。確率だから正なんです。
ちなみに、確率を示す記号に良くPを使いますが、これはProbalityの略です。逆にPをいきなり使っている時は確率の意味の時が
結構あります。
・銀行預金過程B
B={Bt:t=0,1}
t=0での預金をB0、t=1での預金をB1とし、B0=0とする。
過程(process)と呼ぶのは、t=0からt=1で変化しますよという意味です。
・利率
r=B1−1、通常は≧0
r=(B1−B0)/B0で、B0=1なので、この式になります。
また、単なる割り算ということは単利ですね。
具体的な数字で例にすると、B0=1、B1=1.05で、r=0.05(つまり5%)という風です。
・価格過程S
証券の価格の変化。S={S(t):t=0,1}
ただし、S(t)=(S1(t),S2(t),...,SN(t))
Sn(t)とはn番目の証券のt時点での価格を示します。
・取引戦略H
t=0からt=1まで所持するポートフォリオ。H=(H0,H1,...,HN)と表す。
特に、H0は銀行預金のこと。
ポートフォリオというと難しく聞こえますが、要は資金配分のことです。
つまり、銀行預金にいくら、証券1にいくら、証券2にいくらと配分していくことを指しています。
投資家にとって、結局、この資金配分が戦略に相当する訳です。
・価値過程V
ポートフォリオの総価値。V={Vt:t=0,1}
Vt≡H0Bt + Σn=1,N HnSn(t)
資金配分による、時刻tでの価値です。つまり、t時点でいくらお金があるかを示します。
・利得過程G
ポートフォリオの価値の増減のこと。
G≡H0r + Σn=1,N ΔSn
ΔSn≡Sn(1)−Sn(0)
G=V1-V0が成立し、増減であることがはっきりします。
・割引価格過程S*
銀行預金を基準として、証券の価格を比率で示す。
Sn*≡Sn(t)/Bt
銀行預金というのは、何も苦労せず、自動的に利子が付く訳で、
少なくともこの利子分より証券価格が上がらないとそもそも投資の意味がないのです。だから、これを基準にするのです。
・割引価値過程V*
銀行預金を基準として、価値過程Vを比率で示す。
Vt*≡H0 + Σn=1,N HnSn*(t)=Vt/Bt
・割引利得過程G*
割引価格過程S*で利得過程を示す。
G*≡Σn=1,N HnΔSn*
ΔSn*≡Sn(1)*−Sn(0)*
利得過程Gと同じように、G*=V1*−V0*が成立しています。
■Q&A
1).t=0からt=1という時の時間の単位は何ですか?(秒、日?)
ここの時間は抽象的な時間なので、特に単位は想定していません。
とりあえず、短い時間と思えば良いでしょう。
2).空売りって何ですか?
普通、株式は(将来値上がりすると思って)まず買って(値上がりしたら)売りますよね。
じゃ、逆に将来値下がりすると思う時はどうするのでしょうか?そういう時は、株式を借りてきて
その株式を売ることができます。これが空売りです。もちろん、借り賃は必要ですよ。
また、借りてきているんで将来返す必要があり、このために売った株式を買い戻す必要もあります。
整理すると、
普通 ... 買ってから売る
空売り ... (借りて)売ってから買う(そして返す)
となります。
3).危険証券ってどういう意味ですか?安全証券があるんですか?
銀行預金に比較して(値下がりや、発行会社の破産でパーになることなどの)リスクがあることから危険といいます。
リスク証券ともいいます。
安全証券という言葉はありませんが、銀行預金や国債がそれに相当します。
4).銀行預金H0はなぜ1つだけですか?一般的には、複数ですよね?
t=0の時にも銀行利子rは確定しているので、銀行預金を基準にする訳ですね。
この基準が複数あるとややこしいので、1つにします。なにしろ、Btで割りますからね〜。
理論的には、複数の銀行預金をまとめて、H0にすれば、容易に対応できるので、1つですましているんでしょう。
5).記号の意味が良く分からないのがあります。
≡ ... 定義を意味します。「A≡B*C」とすると、「AをB*Cで定義する」という意味です。
∈ ... 集合の要素を示します。「ω∈Ω」とすると、「ωは集合Ωの要素である」という意味です。
N<∞ ... Nが有限であることを示します。
行列の転置(transpose)をA’というようにダッシュで示します。
数学分野では転置をダッシュで示すのはあまり見かけないんですが、経済分野では多いようです。
私はATのように示すのが好みですので、この解説ではATで統一します。
■問題回答
問1.1
Vt*=H0+Σn=1,N HnSn*(t)
=[H0Bt+Σn=1,N HnSn(t)]/Bt=Vt/Bt
問1.2
V0*+G*
=H0 + Σn=1,N HnSn*(0) + Σn=1,N HnΔSn*
=H0 + Σn=1,N Hn{Sn*(0) + ΔSn*}
=H0 + Σn=1,N HnSn*(1)
=V1*
3つ目の等号では、Sn*(0) + ΔSn*=Sn*(1)を利用しています。
問1.2
a).
r=1/9より、B1=(10/9)H0
S0=5, S1(ω1)=20/3, S1(ω2)=40/9, S1(ω3)=30/9より、
S1*(ω1)=6, S1*(ω2)=4, S1*(ω3)=3
V0=H0+5H1、またV0*=V0
1).状態ω1が起こった時は
V1=(10/9)H0+(20/3)H1
V1*=H0+6H1
G=V1−V0=(1/9)H0+(5/3)H1
G*=V1*−V0*=H1
2).状態ω2が起こった時は
V1=(10/9)H0+(40/9)H1
V1*=H0+4H1
G=V1−V0=(1/9)H0+(-5/9)H1
G*=V1*−V0*=(-1)H1
3).状態ω3が起こった時は
V1=(10/9)H0+(30/9)H1
V1*=H0+3H1
G=V1−V0=(1/9)H0+(-15/9)H1
G*=V1*−V0*=(-2)H1
b).
r=1/9より、B1=(10/9)H0
V0=H0+5H1+10H2、またV0*=V0
1).状態ω1が起こった時は
V1=(10/9)H0+(60/9)H1+(40/3)H2
V1*=H0+6H1+12H2
G=(1/9)H0+(15/9)H1+(10/3)H2
G*=H1+2H2
2).状態ω2が起こった時は
V1=(10/9)H0+(60/9)H1+(80/9)H2
V1*=H0+6H1+8H2
G=(1/9)H0+(15/9)H1+(-10/9)H2
G*=H1+(-2)H2
3).状態ω3が起こった時は
V1=(10/9)H0+(40/9)H1+(80/9)H2
V1*=H0+4H1+8H2
G=(1/9)H0+(-5/9)H1+(-10/9)H2
G*=(-1)H1+(-2)H2
c).
r=1/9より、B1=(10/9)H0
V0=H0+5H1+10H2、またV0*=V0
状態ω1、ω2、ω3が起こった時はそれぞれ上記b)と同じ
4).状態ω3が起こった時は
V1=(10/9)H0+(20/9)H1+(120/9)H2
V1*=H0+2H1+12H2
G=(1/9)H0+(-25/9)H1+(-30/9)H2
G*=(-3)H1+(-2)H2
おめでとうございます。これであなたは「1.1モデルの記述」をマスターしました!
戻る

